ひまわり会では、5月と6月に続き3回めの新型コロナに関するオンラインセミナーを、12月5日に、ソノマバレー病院ホスピタリスト・メディカルディレクターの湊あこ医師を招いて開催しました。米国で感染者数と死亡者数が増加の一途で、このベイエリアでもまた外出の規制がより厳しくなる中、多くの方に参加いただき、この疾患に対する関心の高さがうかがわれました。

湊氏は、日本で下部消化管外科専門医として大学病院に勤務後、2005年、米国へ移住し、改めて米国の医師免許を取得後内科研修、現在はソノマの病院でホスピタリスト、入院病棟、I C Uのメディカルディレクターとして勤務されています。ホスピタリストという職種・概念は日本ではまだ広くは普及していませんが、急性期内科疾患で入院が必要な患者を診る病棟総合内科医の専門医です。

今年は、新型コロナの入院重症例を多く診療されており、その豊富な経験をもとに、臨床医学の観点から患者さんや家族から質問されることを中心に、この疾患についてわかりやすく整理して、約1時間お話しいただきました。

広範な話の中から、いくつかのポイントをご紹介します。______________________________________

SARS-Cov-2 (新型コロナ感染症の原因ウイルス) のPCR 検査陽性率は、10月はベイエリアでは平均3.9%以下であったが、増加傾向をたどり12月にはCA州全体で6.4%、全米では8%と増加し、自粛規制がより厳しくなった。

感染拡大を抑える有効手段は、SARS-Cov-2の性質や疫学を信頼性の高い情報源から学び、それに応じた予防法に備える事である。

予防策としては、3つの感染経路(接触感染、飛沫感染、エアロゾル感染)に応じて、こまめな手洗いや消毒(接触予防)、6フィート以上のフィジカルディスタンシング(接触、飛沫予防)、マスクやゴーグル・フェースシールドの着用(飛沫、エアロゾル予防)屋外での会合や十分な換気(エアロゾル予防)等をする必要がある(図1)。


図1 接触感染、飛沫感染、エアロゾル感染を予防する方策

効率的な換気には、部屋の対角線上に2つ以上の出入り口を開け対流を作ることが大事だが、対面に窓やドアがない場合は、出入り口の1つから扇風機などを用いて積極的に室内の空気を外に出すと、効率良く換気できる(図2)。


図2 対流を作って効率的な換気

新型コロナ感染の入院患者は高齢、2型糖尿病、肥満とリスクが高い患者が多いが、中には若くて健康でも重症になる人もいる。主な症状はインフルエンザと同様、発熱・悪寒、咳、息切れ・息苦しさ、その他倦怠疲労感、筋肉痛、頭痛、他で、味覚・臭覚が新たに喪失する症例もある。図2 対流を作って効率的な換気

臨床経過からインフルエンザと新型コロナ感染を鑑別する事は難しいのでこのような症状が出た場合はかかりつけ医やパブリックヘルスに相談し、適宜PCR検査を受ける。ウイルスに暴露しても無症状な場合は、CDCのガイドラインに沿って自主隔離(Quarantine)を行う。好奇心で検査するのは、元状況では検査キット数不足が懸念されているので推奨はされていない。

PCR検査が陽性の場合は、直ちにCDCガイドラインや医師の指示に従い最低10日間は隔離(Isolation)する。呼吸の苦しさ、胸の圧迫感、頭がもうろうとするなどの症状が出たら、かかりつけ医の指示に従うか、もしくは救命救急室(ER)へ行く必要がある。急性呼吸不全、意識レベルの変化、多臓器不全、他、重症症状が見られる場合は入院して治療を継続する。

もし感染者に近接に接触した場合は、症状がなくても、たとえPCRテストが陰性でも、 CDCのガイドラインに沿ってQuarantineしなければならない。SARS-Cov-2感染者が自宅でIsolationしている場合、感染者を完全に自宅内で隔離できない場合はその同居者は感染者とともに隔離を行い、その患者のIsolationの最終日から数えてCDCの指定する期間のQurantineを開始する必要がある。

典型的な病状の経過としては、ウイルスに暴露してから数日後(3−14日)に約6割の人に症状が発症し、発症前48時間前からが他者への感染力が一番高い。また無症状の感染者も感染力があるため、感染源を特定し未然に防ぐ事が難しく、感染が広がる傾向にある。発症後、約7−14日間に症状が悪化する傾向があり、この期間に入院する人が多い。ここから徐々に回復する人と、重症化してICUや人工呼吸器が必要になっていく人との運命が分かれるところである(図3)。


図3  新型コロナ感染の一般的な症状の経過

新型コロナ感染の死亡率は国によって差があるが、米国では約2%、データにもよるが入院患者では21%、気管挿管に至った患者においては50-71%もの死亡率の報告がある。パンデミック初期に比べれば気管挿管する患者の数もまたその死亡率も下がってきているが、これから感染者数が急増し医療崩壊が起こると、死亡率が上がると懸念する。

SARS-Cov-2に奏功する治療薬や治療方法は完全に確立していない。治療薬は現状では入院患者には、軽度の呼吸不全の患者には抗ウイルス薬であるレムデシビル(新型コロナ感染の治療薬として現在FDAが承認した唯一の薬剤)を、中等度から重度呼吸器不全が起こっている症例には強い抗炎症作用のあるデキサメタゾン(ステロイド)を使用している。新型コロナ感染の外来患者には、モノクローナル抗体が最近FDAにより緊急使用許可(EUA:Emergency use Authorization) が出て期待できる治療法として注目している。

ワクチンの目的は、死亡数及び重症患者の削減と、集団免疫の獲得による感染の拡大を抑制することだ(図4)。12月後半から2種のワクチン接種開始の見通しだが(注:その後米国では12月14日から接種開始)、WHOは「米国においての集団免疫の獲得には現状の予防策をとりながら、人口の70%が効果率80%以上のワクチンを接種する必要がある」と推測しており、米国民からのワクチンの安全性と信頼性獲得、妊婦や子供への接種問題、分配問題、他沢山のバリアがあり集団免疫の獲得には2021年いっぱいはかかると自身は予想している。


図4 集団免疫(人口のほとんどが感染症に免疫がある場合、間接的に感染を防ぐ)

インフルエンザワクチン接種においては今年は特にお勧めする。目的は、個人のインフルエンザ感染防止は言うまでもなく、それに加えてSARS-Cov-2とインフルエンザウィルスへの2つの感染の報告もあり、また両方に罹患するとより重症化するという報告もあるのでそのリスクを減らす事、また病院のベッドの確保と医療従事者のこれ以上の負担を減らすことだ。

最後に、ホリデーシーズンを無事に過ごすための心得として、CDCなど信頼できる公的機関からの情報を得る、なるべく人混みや旅行を避ける、予防策を常に心がけ行う、家族や個人でリスクと利益のバランスを考え行動する、換気を心がける、くしゃみは上腕~肘の内側で口や鼻を抑えてするなどを勧める。

この後、湊氏は参加者の方からの質問に明快かつ丁寧に答えていただきました。

このレポートを書いている12月後半、ベイエリアの病院のベッドやICUがほぼ満杯してきたと報道されています。自分自身や家族のためだけでなく、湊氏はじめ感染リスクが高い第一線で診療を続けている医療従事者の方々の負担を減らすためにも、感染しないように気を付け、油断なく用心を続けて、お元気でお過ごしください。

(ウイリアムズまり)