10月14日のワークショップは、鈴木淳司弁護士をお招きしてエミリービルのパシフィックプラザのミーテングルームで催されました。会員11名、一般31名、総計42名もの方が参加しました。
鈴木弁護士は、このワークショップで日米の法律の相違を知り、不正確なインフォーメーションを訂正するきっかけになれば、この法律の基本的な知識が皆さんの生活に少しでも安心をもたらす事が出来れば嬉しいと思います、とユーモアに溢れたお話で、爆笑しながらの2時間の有意義な勉強会でした。

以下は、当日の録音テープを基にした講演の概要の報告で、法律の詳細はマーシャル鈴木法律グループの『法律ノート』を購読して学んで下さい。

『エステートプランニング』日本語では相続設計と言います。

日本ではあまり自分が死亡した時の事を話しませんが、アメリカでは自分の死後自分の財産をどうするか,家族をどのように面倒見るか,自分の健康状態が悪化し植物人間になった時、不慮の事態が発生した場合に、どうしたら家族や周りに人に迷惑をかけないように出来るか、を若い時から考える人が多く、自分の死後をプランニングするのがエステートプランニングです。

エステートプランニングには次の4が含まれます。

1)生前信託(Living Trust、リビングトラスト)
2)遺言(Will)
3)財産にする委任状(Power of Attorney for Finances )
4)医療に関する委任状(Power of Attorney for Medical)

1)と2)は死後に活躍する書類です。3)と4)は生きているけど植物人間になってしまった時に、どのような判断をするべきかを書いておく書類です。
3)は財産に関する委任状で、植物人間になった場合、家族や友人の中から信頼の出来る人を選んで、自分の代わりに金銭の収支の管理をしてもらう様決めておく書類です。
4)は医療に関する委任状で、事前に委任状を作成して特定の人(家族、友人の一人)を指定し、『もう助かる見込みが無い』と医師が判断した場合は、その人に生命維持装置のスイッチを切る判断を委ねる書類です。

1)から4)はそれぞれ重要な書類で、4つを揃えて作成する事をお勧めしますが、必ず揃えなければならないと言うのではないので個別に弁護士に相談して下さい。
通常1)から4)まで揃えて作成する費用は$2000−$3000です。

遺言を書く、リビングトラストを作成する際に、財産が多い少ないと云う事は最重要なファクターではありません。自分の死後、残された家族に迷惑をかけない為にプランニングをする事が重要なポイントです。

遺言やトラストを作って置かないと死亡した時に政府に財産が持っていかれてしまうと危惧されている人が居ますが、これは全く間違ったインフォーメーションです。遺言が無い場合 各州には必ず法定相続(intestate) という制度が定められていて、その制度に従って財産が分配されます。

相続とは人が死んだ時、死んだ人の所有物、財産を他の人に渡す手続です。
遺言は「ゆいごん」とも「いごん」とも読まれますががどちらも同じものです。
遺言(Will)とは最後にこの世に残す指示書で、指示した本人はもう生きていないので、誰かがその指示を実行しなければなりません。現在は裁判所が手続(プロベイト)を行います。プロベイトは時間がかかり、色々の費用が掛かり、遺言の内容が公になるという欠点が有ります。

裁判所における相続手続(プロベイト)の欠点を避ける為に、近年、生前信託(トラスト)が考案されました。

生前信託(トラスト)とは何でしょう?
トラストとは会社と同じ様なものと考えるのが一番判り易いと思います。

相続は人が死んだ時に発生する、即ち、人が死ななければ相続は起きないのです。従って死なない『人造人間』(トラスト)を作り、財産を持たせておけば本人が死んでもトラストは生きているので、相続は発生しないと云う訳です。
会社と同じ様な役目を持つ『人造人間』を作り、財産をトラスト名義に書き換える。社長が死んでも会社は無くならない様に、トラストを作った人が死んでもトラストは生きていて、社長の後継者のように指定されているトラスティー(trustee)がトラストの内容に従い財産の配分等を行います。

トラストへの名義変更には原則として贈与税は掛かりません。

トラストを作成する事がイコール税金対策になるとは絶対に考えないで下さい。

アメリカ市民権を持っていると税金が安くなると思っている人も有る様ですが、これも正確なインフォーメーションでは有りません。市民権所有者と永住権所有者の違いは、一人につき5ミリオンドル、夫婦間で10ミリオンドル以上の財産が有る夫婦には節税メリットがあります。それ以下なら市民権所有者と永住権所有者とでは全く差がありません。但しこれは2012年現在の税法でアメリカの法律は激しく変り、5ミリオンのリミットがいつ減少するか判らないので常にチェックする事が必要です。夫婦間では安心の為にトラストを作って置くにも良いアイデアです。

この他にも高額資産者の為の節税プランもありますが、トラストを使って税金対策を考える方は弁護士に相談する事をお勧めします。

未成年の子供が居る場合には、両親が死んでしまった場合、裁判所を通して未成年の子供の保護者を決めなければなりません。事前に親が信頼出来る保護者(監護義務者)を指定しておけば一番安心です。
子供の保護者になると云うのは重大な責任を伴うので、事前に選ばれる人の意思を確認する必要があります。一人だけでなくバックアップとして何人か選択しておく事も出来ます。

トラストや遺言の用紙は文房具屋やウェブサイトで手に入れる事も出来ますが、書類には細かなルールが有り、一つでも間違えが有ると、後で訴訟問題が起たり、又は全く無効になる場合も有るので、ぜひ弁護士に相談する事を勧めます。
日本では手書きの遺言が有効ですが、アメリカでは無効です。
アメリカでは遺言はタイプされ、二人の証人のサインがあり、日付が明記されていなければ法律的には認められません。

何故トラストと遺言の両方を作るかと云う理由は、トラストには不動産等を個別にリストアップして明記します。遺言ではもっと広い意味で、私の宝石、着物等とトラストに含まれなかった私物や小物類を一括して記す事が出来ます。
トラストのバックアップ書類と考えてもいいでしょう。
トラストや遺言は何度も書き換える事も出来、一番日付の新しいものが有効です。通常人が死んだり,所有財産に大きな変化が有った時だけに書き換えるもので、弁護士から毎年維持費が掛かる等と云われたら要注意です。
アメリカに自分の家族や親族が居ない場合には、日本にいる家族や親族に英語の遺言書やトラストを託しておく事も出来ます。日本の家族や親族でも遺言やトラストの管理は出来ます。

アメリカでは遺言やトラストは他人に見られてもその効力を失う事は無いので、信用出来る人に内容を知らせておく事も出来ますが、財産分配等に個人差がある等センセティブな情報が有る場合は、書類の保管されている場所だけを家族に知らせるのもよいかも知れません。

ワークショップでは『アメリカにおける相続設計が判る!エステートプランニングとは』と云う参考資料を頂きました。ワークショップに参加し、この「法律ノート」を読んだ後でも、まだよく判らないと思われる方は何時でも連絡して下さいとの事でした。

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