「腰痛とサステナブルな関係を目指して」セミナー

8月7日、UCSF整形外科助教授の森岡和仁氏を講師に迎え、腰痛に関するセミナーをオンラインで開催した。森岡氏は、整形外科と脳外科に所属し、脳・脊髄と筋肉・骨の関係を、動物から統計まで幅広く活用しながら基礎から臨床につながる研究をしている。今回は、日本人の約8割が一生に1度は経験するといわれる腰痛について、基礎から診断、治療まで深い知識をわかりやすく説明いただいた。そのごく一部を示す。

腰は人間の生活と生命維持に重要な機能を担う部位で、骨、軟骨、筋肉、腱、靱帯、神経、軟部組織などで構成され、そのどれも腰痛の原因になりうる。腰痛の持続期間によって、急性(1か月以内)、亜急性(1~3か月)、慢性(3か月以上)に、また原因によって非特異的腰痛と特異的腰痛に分類される。

急性腰痛症は、動作により発症した場合“ぎっくり腰”であることが多く、腱や靱帯が炎症を起こして筋肉や筋膜へ広がる。治療は、患部の冷却や市販の抗炎症薬(アドビルやタイレノールなど)の内服によって炎症を抑えて痛みのピークを乗り越え、少し痛みが治まってきたら自制内で動くようにする。長時間安静を続けるのではなく、炎症を減らしながら筋力を落とさないように徐々に日常生活を取り戻し、長引かせて慢性腰痛にしないこと、また改善後は再発予防を心掛けることが重要。ただし、数日経過しても強い痛みが常に持続したり、足に痛み、しびれ、感覚以上、脱力などの神経症状を伴う場合は、かかりつけ医の診察を受ける。

慢性腰痛は、明らかな原因のある「特異的腰痛」と、原因不明の「非特異的腰痛」に分類できる。痛みの状態、危険信号や神経症状の有無、X線、MRI、CT等の検査によって診断され、特異的腰痛には、変形性関節症(OA)、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、骨粗しょう症等がある。坐骨神経痛は、腰の神経が圧迫された結果片方の臀部から足にかけて痛みが放散される症状で、原因部位と痛みの部位が異なる。

非特異的腰痛症は、危険信号も神経症状も検査異常もない原因不明の腰痛で、治療効果が少なく、痛みによる心理的ストレスが治療抵抗性や痛み蔓延の原因として考えられる。痛み自体と痛みによる心理的ストレスが腰痛を悪化させ、動かないことにより筋力低下や脊椎の変形がさらに進行する悪循環を生じる。このため非特異的慢性腰痛には、抗炎症薬のほか、脳に作用する薬(抗うつ剤や弱オピオイドなど)が用いられることが多い。加齢による運動器の変化は包括的に進み改善することがないため、進行を遅らせるために高齢であっても積極的に治療を行い、また痛みを抑えつつなるべく動いて悪循環の連鎖を断つ努力が重要。運動の適切な量と質は個人によって違うが、適度な運動は筋力低下防止やうつレベルを下げる効果のほか、腰痛の有無にかかわらず死亡率や平均寿命の改善効果も期待できる。神経ブロックは、効果が大きいがX線下で施行のため頻繁にはできずまた施行のたび効果が薄れるので、手術前の最終手段と考える。手術は、回復する可能性あるいは悪化予防を目的として行う。

そのほか、開発中の新治療法や、腰やストレスのセルフケアの方法も紹介され、日頃の予防と運動が重要であることが強調された。

参加された方から、「非常に詳しい説明で大変勉強になった」、「専門的な知識をわかりやすく講義してくれた」、「大変有意義だった」、「先生の治療への心意気を感じて頼もしく思った」等々、多くの感謝の声が寄せられた。

多忙の中多くのスライドを作成してわかりやすい講義をしてくださった森岡氏に、改めて感謝するとともに、さらなる研究の発展を願います。また、私自身も松平式腰痛体操を習慣に取り入れ、日ごろから適度な運動を欠かさず、腰痛持ちにならないように心がけていこうと思いまます。

(レポート ウイリアムズまり)