講評  山藤章二

いま、「自分史を書いてみたら如何ですか」という広告をよく見かける。悪いことじゃない。人間、誰もがドラマの主人公だから、そして書くのが自分だから、こんな確かなことはない。ただ、いきなり長い文章を書くことに二の足を踏む方も多いだろう。フルマラソンに初めて挑戦するようなもので準備は必要だ。

そこで足慣らしに「コラム」を書くことをおすすめしたい。それ程難しい作業ではありません。日々のニュースを見聞きしても、いろいろな人間と話をしても、必ず「何か」を思うはずです。その時に思ったこと、感じたことを、あまりひねったり、美化したりしないで、素直に文字にするのです。

文脈的に変だなとか、日本語としてみっともなくないようにしよう、などと、常識的に判断しないことが肝心です。そういうところに神経を使うと、もっともっと大切なところに気が回らない。「自分の意見」を見つけることに全神経をはたらかせること、それがコラムの命です。最悪なのは、世間の多くの人が抱くであろうと思われる「常識的な意見や感想」と同化することです。「コラム」は「ひとりごと」と同じものです。他の皆と調子を合わせないことが価値です。

たかが6-7百字の雑文です。まず自分の意見を持つこと。コラムも自分史もそれが源(みなもと)です。

(週刊朝日より引用)