「旅をするとき」土屋和子

美しい景色や歴史を知る観光も楽しいけど、一番の醍醐味はその文化や歴史が生み出した国民性を垣間みる事だろう。それぞれの国特有の味が有り「へエー」と首をひねったり「なるほど」と感銘する事が多い。

ロシアには沢山の美しい建物や素晴らしい絵画を集めた美術館がある。大陸のせいか大きな物を好んだ様な気がする。モスクワの赤い広場には大きな釣り鐘が展示されている。人の背丈の5倍も有るような大きさだけど、ひびが入っていて壊れたまま地面に置かれている。ガイドさんは「世界で一番大きい釣り鐘を作ったけど いざ 吊り上げようとしたら重すぎて柱が折れて落ちて破れてしまった」と云う。鋳造中に火事が有り、消火の水で割れてしまったとも云われている。
どちらにしても 失敗して壊れてしまった巨大なベルを観光スポットにするというのは、日本人の感覚では「どうもね」と首をひねってしまう。美術館にはバスタブのサイズの立派な大理石のワインカップが展示されていた。テーブルの上に置いてあるが、どう思っても持ち上げて乾杯をする事は出来ないだろう。皆で周りに集まってすすり飲みしたのだろうか?

タイを訪れた時 貧しい人も多いけど皆穏やかで優しい。アメリカの都市の住民のように何時も腹を立てて怒鳴り散らしたり、暴動を起こしたりしないようだ。ガイドさんは「仏教信者が多いから 皆優しいのです」と説明してくれた。
でも象の乗ってみて、初めてタイの人々の性格が少し判った様な気がした。
象は馬の様に乗り手が 「ハイハイ、ドウドウ」と足で蹴ったり 手綱をひいて乗りこなす事は出来ない。象さんの思いのままに ユラリ ユラリとゆっくり進むだけ。象が怒るととても危険だそうだが、本当に力のある者は普段は優しくて穏やかで忍耐強いのかも知れない。カッと成り易い江戸っ子は見倣わなくてはー

(了)