4.スタッフの疲弊の原因と対処のパターン

ス タッフ不足:日勤帯(7am-3:30pm)で、看護助手1人がレジデント6-8人担当する。ふたりのLVN/RNは、35人―40人の薬の管理、包帯交 換など医療的なかかわりを担当する。ユニットによっては、LVN/RNはひとりだけのところもある。食事介助、排泄介助、シャワー、ベッドバスなど朝の時 間帯は手一杯になる。病欠がでたときのダブルシフト(16時間勤務)。
電話応対:医師、薬剤師、PT/OT, レントゲン・心電図、緊急血液検査など、外部との連絡。家族への報告など、すべて電話で行われる。
レジデントの症状の多様さ:癌の末期、脳血管疾患のリハビリ、チューブ栄養、妄想やうつなどの精神症状など、出産以外のあらゆるものがある。「たきこみごはん」のような状態。
裁判沙汰への不安:一般的なナーシングホームへの悪い固定観念から、スタッフに懐疑的態度で接してくる家族があり、信頼関係が築きにくいケースがある。明らかに金銭が目的で裁判に持ち込んできたケースもあった。
自分の生命観に反する治療:死期が近づいて食欲不振になったレジデントにホルモン剤が処方されて、一時的に食欲増進されたりするが、副作用もある。

典型的対処パターン

  • 完全手抜き、ナースコールがなっていても無視する。
  • 手抜きできなくて、がんばりすぎて燃え尽きる。
  • 見事に優先順位をつけて、レジデントと家族がほんとうに何を欲しているかを見極めて対応する。
  • ユーモアのセンスで、レジデントと対応して、緊張感をほぐす。
  • 燃え尽きてしまった私が求めた「いやし」の方向
  • 生け花を習い、自宅と職場の受付に花をかざる。
  • 茶道を習い、仕事を忘れて静かな時間を定期的に持つ。
  • ダンスを習い、抑圧傾向だった自己表現の機会を持つ。
  • 医療気功やエサレンマッサージなど、人間の体に流れるエネルギーに関することを学ぶ。(まずは、自分自身がネガテイブなエネルギーを放出し、ためないようにし、人からもらわないようにする)

 

5.印象深いレジデント、家族の事例

いやしのエネルギーを放出していた方々

  • 90代男性、寡黙だったが、礼儀正しく、錠剤も自分で服用できた。静かに一人で過ごすのを好み、I am just waiting for my time.といっていた。
  • 90代男性、妻が認知症で、いっしょに入所していた。日本語が話せるロシア系の方。おもいやりのある会話のできる方。
  • 80代の兄が片足切断して療養中に定期的に見舞いにきていた妹さん。兄の死後、1週間後に他界。
  • 80代の兄が療養中に笑顔を絶やさずに見舞いつづけていた妹さんが癌で先に他界。
  • 80代の盲目の認知症のある男性。肺炎が悪化して、息子さんの見守りの中で、静かに息をひきとった。7年半の勤務経験で、家族に看取られたのは3人のみ。

レジデントが亡くなって数日してから、看護師詰め所まであいさつにきてくれた方々。

  • 80代男性。両足切断、チューブ栄養。クリスマスに、妄想ではあるが、不自由なことばで、スタッフに「目に見えないチェック」を手渡してくれた。

かかわり続けるのがつらかった方々

  • 60代女性。頻回に脳腫瘍の手術をうけたため、知的レベルが退行し、常にスタッフの注目を得ようとする。歩行器からの転落数回あり。
  • アルツハイマー病で、5分おきに、昼食の時間や本日のメニューを質問する。
  • 重箱の隅をつつくように、毎日のように電話してくる家族。

 

6.提言:できるだけナーシングホームにはいらないで人生の仕上げの時期を過ごすために。

50代で思考力のしっかりした時期に、これから死ぬまでの時間をどのように過ごすかビジョンを持ち、準備をすること。

リビングウィルを書いて、いつ何がおこっても、あとに残された家族や友人が困らないように、法律的な手続きをしておく。Durable power of attorneyなど。例:医学的治療をどこまでしたいか、財産の処分、葬儀の有無など。

ある程度の老化にともなう変化をうけとめながら、いただいた命を感謝して生きる。

i.現状をうけいれる。
ii.好きで打ち込めるものがある。
iii.他者との交流を保つ。

これからの持ち時間でやってみたいことを思いつくままに書き出して、できることから実行していく。

気の合う仲間どうしで支えあえるネットワークづくり。具合のわるいときに食事をつくりにいったり、配達したりできる関係。

健康の基本チェック
身体:野菜たっぷり、栄養のバランスのとれた食事、無理のない運動、睡眠
こころ:「ありがとう」「ごめんなさい」「I love you 」が、素直にいえるように。笑顔であいさつをする。
たましい:一日に一度、静かに瞑想する。何かひとつでもいいから、地域の人のために役立つことをする。地球に生まれたことを感謝する。

本文は日野さんがサンフランシスコのあるひとつのナーシングホームでの経験を元にしたものです。